母からの頼みで、同級生の不登校と毎日ボードゲームをした結果…

ほのぼのネタ

ボランティアのつもりで、不登校だった女子とゲーム遊びをした。
なんと、それがきっかけで、結婚してしまった。

僕が14歳だったときのこと。
母から、母の友達のところに届け物をして欲しいと頼まれた。
母の友達というそのおばさんは、子どものころからよくうちに遊びに来たり、
一緒にどこかに連れていってもらったりしていた人。
自転車で15分ほどのところに住んでいたので、僕は母の頼みをすんなり受け入れた。

そこで、母はそのついでのように「Aちゃんが、あんたとボードゲームしたいそうだよ」と言う。
Aちゃんというのは、ぼくと同い年のおばさんの娘で、
子どものときはよく一緒に遊んだけど。学校がちがうので、ずいぶん長く会ってなかった。
僕は深く考えることなく「わかったよ」と返事をして、おばさんの家に行った。

届け物を渡すとおばさんは喜び、そしておやつの準備をしてくれた。
「せっかくだから、Aと一緒に食べたらどう?」と言って、
二階のAちゃんの部屋に案内してくれた。

Aちゃん。一応、幼なじみではあるけど彼女は同い年の女子だ。
当時、思春期で異性を意識し出していた僕は、
女子の部屋、というだけでなんともいえない妙な気持ちだった。
が、その浮いた気持ちは、数秒後に打ち砕かれる。
「Aちゃん、僕くんが来てくれたわよ」おばさんがそう言いながら、
開いた扉の向こうは恐ろしく汚い部屋だった。

その様子に僕は、ショックを受けて目を見開いたと思う。
そして、久しぶりに見るAちゃんは、残念ながらお世辞にもかわいいとは言いがたい。
髪がボサボサで、大きなめがねをかけ、ついでに不健康な感じで痩せていた。
しかも、こちらを見ることなく、漫画を読んだまま。
おばさんが、そこにあった本をどけておやつを置いてくれたけど、
僕はしばらく呆然としていた。

「僕くん、ボードゲームが好きなんでしょう?」おばさんが、
汚部屋の小山のひとつから、箱を引き抜いた。
「Aも好きなのよ。でも、対戦相手がいなくて困ってるの。二人でやってみたらどう?」
おばさんがそうやって僕に話しかけている間も、
Aちゃんは漫画から目を離さない。
それなのに、おばさんはさっさと部屋を出て行ってしまった。

しばらくして。「ボードゲーム、やるんでしょう?」漫画を見たまま、ぼそっとAちゃんが言う。
驚いたけど「うん」と言うと、
彼女はテーブルの上に乱雑に置かれた数冊の漫画を横におろして代わりにゲームをおいた。
そして、僕がその前に座り対戦が始まった。

僕はボードゲームが好きだが、学校では誰もやってなくてなので、
相手が誰であれこうやって遊べるのはうれしかった。

と、そんなことを考えているとあっというまに負けてしまった。
「もう一回、やる?」表情を変えずにAちゃんが言う。
「うん」僕は、くやしくてやる気がわいてきた。
そこから数回対戦したが、まったく歯が立たず僕は負けっぱなし。
しばらくして、夕食の時間が近いので帰るようおばさんに促されて、負け逃げすることになった。

それから。
僕は時間があるとおばさんの家にいってAちゃんと、ボードゲームをするようになった。
最初は負けてばかりだったが、数ヶ月すると勝てるようになり、
ますますおもしろくなってきたところで、Aちゃんが突然、言った。
「もう、うちに来ないで」と。

僕はちょっとわけがわからず、考えてしまった。
何か気に障ることをしたのか?いや。それはないと思う。
だって、僕たちは毎回、ただボードゲームをしていただけで、
それ以外は会話らしい会話もなかったし。
でも、Aちゃんが「来ないで」という以上、僕に選択権はない。
僕とAちゃんはそのまま疎遠になり、気がつけば1年が経過した。

忘れていた訳ではないけれど、記憶が遠くなり始めたころ、Aちゃんから急に連絡がきた。
卒業式の日に家に遊びに来ないか、という誘いだった。
僕は驚いたけど、断る理由もなかったので、彼女の家に久しぶりにでかけた。

チャイムを鳴らすといつもなら、
まずおばさんが出るのにその日はAちゃんが対応し、ドアを開けてくれた。
「え、だれ?」と思わず口にしそうになった。
「どうぞ」そう言って微笑むAちゃんは、1年前の彼女とはまるで別人だったのだ。
髪はキレイに整えられ、少しぽっちゃりとしてかわいくなっている。
「お母さんは、いまおやつを買いに行ってるから。
入ってよ」Aちゃんはなぜか恥ずかしそうにそう言った。
「めがね、やめたの?」と聞くと「コンタクト」と一言。
愛想のなさは相変わらずのようだった。

それから、二人でボードゲームをしておやつを食べて。
さて帰ろうかと思ったとき、Aちゃんがまたぼそっと言った。
「僕くんのことが好きなの」え、え~!僕は初めて告白というのをされたらしい。

こういうとき、なんて返事したらよいのかわからず、ただ真っ赤になっていた、と思う。
「彼氏になってください」え、え~!二度目のびっくり。
びっくりしすぎて黙っているのを、拒否と思ったのかAちゃんは、暗い表情になった。
「ご、ごめん。びっくりしすぎたから」あわててそう言った。
そして、僕たちは、めでたく?付き合うことになった。

高校になっても、変わらずゲームをしながら一緒に過ごしていた。
あるとき「ねえ、恋人同士ってゲームじゃなくて、デートとかするんじゃない」と突然、
Aちゃんが言い出した。
そう言われるとそうかもしれない。
そこでAちゃんにどこに行きたいか尋ねると、動物園に行きたいという。
そこで、さっそく動物園へ。
実は心の中で「動物園なんて幼稚園の遠足みたいだなあ」ってちょっとバカにしてたんだけど、
それが、めちゃくちゃ楽しかった。
Aちゃんがお弁当を持ってきてくれていて、二人で食べるとおいしかったし。
そうして、僕たちは、外デートも楽しむようになっていた。

その後はお互い地元の大学に進み、やがてそれぞれ地元の会社に就職した。
僕たちは、一緒にいるのが当たり前で、
しかも、元々母親同士が友達だったから、家族のような存在になっていた。
それぞれの両親は、当たり前みたいに「いつくらいに結婚するの?」と尋ね、
当たり前みたいに「いつでもいいよ」と答えて、そのまま結婚することになった。

そして、結婚から3年経ち、
子どもが生まれたので僕たちはお互いの実家の真ん中あたりに一戸建てを購入することにした。
その引っ越しの準備をしていたときのこと。
「パパ!パパ!」嫁さんが、はしゃいだ声を出すので見に行くと、
経年劣化で変色した箱を抱えていた。
「ボードゲーム!」僕は、懐かしくて思わず声をあげた。
それは、二人をつないだあのゲームだった。
「私、このゲーム大好き」嫁さんが心からの声でそう言った。
「このゲームが私の人生を支えてくれて、そしてパパと結婚させてくれたもん」嫁さんによると、
僕と初めてゲームをしたころ、彼女には友達がおらずゲームは母親としていたのだという。
人付き合いが苦手な彼女は、それで良いと思っていたらしいが、
僕とゲームをするようになって変わったのだとか。

「パパともっと仲良くなりたいって思ったの。
そのために、かわいくなって、パパに私とずっと一緒にいたいって思ってもらいたかったの」

そのために、1年間、僕と会うのをやめて自分磨きに精を出したらしい。
「今もパパに愛想尽かされないように努力してるよ」だそうだ。

僕は思わずにやけてしまう。
ここまで一途に愛してくれる女性に出会えるなんて、僕はなんてラッキーなんだろう。
とまあ、ちょっとうぬぼれで締めくくるけど、許して欲しい。

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